東京高等裁判所 昭和57年(く)207号 判決
所論は、要するに、被告人には刑訴法八九条三、四号に該当する事由が存在しないにもかかわらず、右の事由があるとして弁護人のした保釈請求を却下した原決定は不当であるから、これを取消したうえ、被告人に対し保釈を許可する旨の裁判を求める、というのである。
そこで検討するに、一件記録によれば、被告人は、大麻取扱者でないのに被告人単独又は他の者と共謀のうえ大麻草約〇・八五九グラムを被告人の勤務先の事務室内に、また同約一四・二〇一グラムを共犯者方居宅内に隠匿して所持したという事実で逮捕、勾留され、身柄拘束のまま公訴提起されたものであるが、昭和五七年七月一九日に開かれた第一回公判期日において公訴事実を認め、検察官の請求した証拠の取調にすべて同意し、その日のうちに右証拠の取調を全部終え罪体に関する一応の立証が済んでいることが認められるところ、被告人の捜査官に対する各供述調書によれば、本件は、被告人が同年三月ころ、鈴木一夫とフイリツピンに旅行した際、そこで同人が入手した大麻草を二人でタバコの箱の中に隠し入れて日本に持ち帰り、その一部の約四〇ないし五〇グラムを分け前として取得するや、被告人においてこれを小分けして他人に譲渡し利を得ようと企て、約〇・六グラム宛小分けしてアルミ箔で包み、それらを前後三回に亘り三名の者に分譲したほか、前記鈴木に対しても相当量を分与し、その残量を将来売却する目的で所持していたという事案であること、また、被告人には本件犯行の前にも大麻草を吸飲して使用した経歴があることなどの諸事実が認められ、これらの諸事実に徴すると、本件大麻草所持の所為は、前記のように反復継続して累行された大麻取締法違反の各所為の一環をなすものであることが明らかであり、その反復継続性に照らして、これが常習として犯されたものと認めることができるから、本件は、刑訴法八九条三号にいう常習として犯されたものというべく、また更に、本件事案の性質からして、所持にかかる大麻草を入手するに至つた動機、目的、経過、態様、入手後の状況などを明りかにしなければ被告人に対する科刑の適正を図ることが困難であると考えられるところ、未だ必ずしもこの点についての十分な事実調べが終つているとは認められないから(被告人に対して、前記大麻草の密輸入及び売却譲渡の各事実につき追起訴がされているが、右追起訴事実に関する第一回公判は未だ開かれていない。)、このような段階で被告人を釈放すれば、密輸入の共犯者と通謀するなどして、重要な情状事実について罪証を隠滅するおそれがあることも否定できず、この点において被告人に同条四号の事由があるということができる。
してみると、本件について刑訴法八九条三、四号の事由が認められるとした原決定の判断は正当であり、また、記録を精査しても裁量により保釈を許可するのを相当とする特段の事由が存在するとも認められないから、本件保釈請求を却下した原決定は正当である。